<Shopify事業者のインタビュー特集>
創業から46年。キラキラとしたアクセサリーや小物、そして世代を象徴する「ほっぺちゃん」。サン宝石は時代ごとの少女文化を形づくってきた象徴的なブランドです。
しかし、同社は順風満帆に歩んできたわけではありません。急拡大の末に経営が傾き、2021年には民事再生を経験しました。ブランドの存続すら危ぶまれた状況から、再び世に出るまでの道のりは、決して平坦ではありませんでした。
単なる復活劇ではなく、時代に沿ってつながりを積み上げてきた軌跡。サン宝石がどのように変化を重ね、いま何を目指しているのか事業部長の神崎さんにお伺いしました。

(株式会社みっとめるへん社 サン宝石事業部 事業部長 神崎仁美さん)
カタログ通販から始まった少女文化の象徴の軌跡
2000年代初頭、サン宝石は小中学生にとって「自分のお小遣いで初めて買い物をする場所」として絶大な人気を誇っていました。カタログは毎号約200万部に達し、年商は50億円規模。雑誌『りぼん』や『ちゃお』を通じて新しい顧客が次々に流入し、少女文化の一端を担っていました。
しかしインターネット普及によって購買行動が変化する中で、サン宝石もまた、カタログからECへの移行を迫られることになります。
ーー 今のサン宝石さんの運営体制になるまでにはどのような経緯があったのでしょうか?
神崎仁美さん(以下神崎さん) サン宝石は今年で46周年になります。私が入社したのは21年ほど前で、当時はまさにカタログ通販の全盛期でした。2ヶ月に1回の発刊部数が200万部に達していましたし、年商も40〜50億円規模にありました。
当時は今の主力キャラクターである「ほっぺちゃん」はまだ誕生していません。カタログ通販全盛期で、雑誌『りぼん』や『ちゃお』経由で新しいお客様が毎月入ってくる。トレンドを追いながら、サン宝石らしい”やすかわ(安くて可愛い)な商品”を開発していました。
ーー その後、カタログからECへの移行はどのように進んだのですか?
神崎さん インターネットの普及で徐々にアナログ通販だけでは新規獲得が難しくなったので、デジタル化に舵を切りEC事業部を作って公式サイトを立ち上げました。
時代とともに、最初はPHSでのサイト構築。その後、スマホ・PCサイトはプログラミングされたものと、アプリを利用していました。専門家がいないと変更ができないサイトの作りが民事再生後に弊社の足かせになっていたこともあり、一昨年の秋にShopifyに切り替えました。
デジタル化をしていけばカタログの発送コストを抑えられるところに目標を置いて、最終的にはウェブ注文が売上の5割になるまで伸びたんですが、途中から、お子様にDM発送をするという、通販というか会社のやり方自体の採算が取れなくなってしまったというわけです。
ほっぺちゃん誕生とブーム拡大の副作用

(独特な絞りキャラがかわいい『ほっぺちゃん』)
小学校高学年で起こったほっぺちゃん大ブーム。しかし、サン宝石=子供っぽいという見え方、そして事業の急拡大が組織の歪みを生むことになりました。
神崎さん 15年前にほっぺちゃんが生まれる前は、一番多いユーザー層が中学1年生くらいだったんです。小学校6年生で初めてサン宝石でお買い物をして、そのまま中学1年生で利用して、その後はシンプルなものが好きになっていく流れで離れるという感じです。離脱を取り戻すために中学生向けのカタログを作ったりしていました。
その試行錯誤の中で、サン宝石ではデコブームが誕生し、デコ商材の中からDIYキャラクターであるほっぺちゃんが生まれて、小学校高学年に爆発的なブームになったんですね。同時に、「サン宝石=ほっぺちゃん=子供っぽい」という見られ方もしたので、中高生向けのカタログを別冊子にし、ほっぺちゃんは「ほっぺちゃんファンクラブ」という別カタログを創刊したりなどもしました。
ーー 順調満帆に聞こえますが、そこからどのような経緯で民事再生に至ったのでしょうか。
神崎さん ほっぺちゃんがうまくいったため、事業の手を広げすぎたんです。店舗も当時は全国で50店舗弱くらいありました。中国に自社工場を作ったり、東京にライセンス事業部も作ったり。ECサイトの構築部隊もいたため、会社は250名規模、自社工場は500名規模になっていました。
そこから事業を縮小せざるを得ない状態になり、民事再生に至るまでにはリストラが3回ほどありました。直営店の閉鎖も相次いで、最後に残っていた原宿店もコロナの波を受け閉店となってしまったんです。社内でも事業の傾きはじめのきっかけは「ほっぺちゃんのせい」みたいな空気があった時期もありましたね。
民事再生と再出発。目に見える再起を目指すガチャガチャ展開
神崎さん 民事再生の2〜3年前から銀行さんやコンサルが入って改善に取り組んでいました。実際に民事再生に至ったときに経営陣が変わって、そこから新しい体制として出直しがはじまりました。以前は何をするにも前社長にお伺いを立てる必要がありましたが、新しい体制では現場の判断で動かせることが増えたんです。
民事再生から1年目は、売上の75〜80%を占めていた通販の改善が最優先だったんですが、「サン宝石って潰れたの?」という声も多かったので、「サン宝石以外の土俵へほっぺちゃんを打ち出して、目に見えてわかる復活を作ろう」と考えたんですね。その一つがガチャガチャ展開です。
ーー ガチャガチャ展開が復活への最初のアクションだったのですね。
神崎さん そうなんです。何もわからない中、営業を始めましたが全然決まらなくて五里霧中でした。でも、いくつかのお取引先さんから引き合いをいただく中、SNSで「サン宝石のガチャを見かけた」「懐かしい」「まだあったんだ」「どこで買える?」という声が広がっていきました。
その様子を見た問屋さんから「ほっぺちゃんを使いたい」という声がかかり、昨年8月には『ほっぺちゃんあげいん』のコーナー展開を開始できるまでになりました。

(『ほっぺちゃんあげいん』コーナー)
ーー 体制が縮小している中で、どのようなことが拡大の実現につながったんでしょうか?
神崎さん 民事再生後は従業員10数人の中、少ないリソースで復活させなくてはいけない。ということは同士を増やすということです。民事再生後のクラウドファンディングで多くの応援をいただいたことで諦められないな、と。私もサン宝石ユーザーでしたから「サン宝石やほっぺちゃんを再度盛り上げたい」という気持ちで走り始めたんです。
それを見ていたライセンシーさんを始め、問屋さんや販路となるお店の店員さんという皆様が、応援してくださって。もともとユーザーだったという方が本当に多くて、代理店として営業していただいたりとか、一緒に復活させたいので伴走してほしいという声をいただいたりしました。その中でコーナー設置につながったんです。まず約200店舗にコーナーを導入して、その後声が広がって、現在は約600店舗くらいにほっぺちゃんコーナーを設置させていただいています。
ーー 今まで、カタログ通販などのtoCメインだったものから、ビジネスが転換していったわけですね。
神崎さん BtoBはBtoCに比べてより薄利ですよね。草の根活動と広告費ぐらいにしか思ってないままで始めたんですけど、思いのほか広がっていきました。
サン宝石からだけの発信だったら市場規模としては数%もいかないと思うんですけど、例えば5%だとしたら、それがBtoBでやっていくことによって、10%になったり、20%になったりと広がりを見せていって。それを見たファンの方が、さらにそれを30%、40%と拡販してくださる流れが見えてきました。結果、外からの熱感がサン宝石に戻ってきていると感じています。
ライセンス展開を武器にする新しいサン宝石のかたち
ーー 再出発の中で、ファンや外部の方からの発信が大きな原動力になったのですね。
神崎さん はい、SNSでも応援してくださる方が大変多くて。これをもっと盛り上げて『ほっぺちゃんあげいん』を失敗させたくないと強く願った昨年の夏にさまざまな機会が訪れました。そこで「SNSを加速させなきゃ」と思って、最初は自分で動かし始めたんです。そこで、「このチャンネルでは向いている、ここでは向いていない」といった手応えも得ながら。
もともとサン宝石はキャラクターやブランドの版権元なのですが、通常のライセンスビジネスの流れだと、アートを支給しメーカーさんがそれを使って商品をつくることが多いんです。でも、私は「お客さんと一緒に作っていくサン宝石」にしたかったんです。当時、一緒に動いてくださっていた代理店の方も奥様がサン宝石のファンで。どうやって盛り上げよう?と相談しながら、ファンを巻き込んで『ほっぺちゃんあげいん』という運動にしたいと思ったんです。
ーー 具体的にはどのような形で広がっていったのでしょうか?
神崎さん 想いを伝えたい!が強かったのでエモーショナルなものを作りたかったのですが、実際に版元が作るとなると、なにか起きたときの怖さがあったので、動画の制作をインフルエンサーさんにお願いしたんです。
彼女たちは自分たちで動画を作って発信して、時には炎上することもあって、でもそれをおさめて。いろんな悩みと闘ってきている実績がある方々なわけじゃないですか。いいご縁で知り合った方がいらっしゃったので、私の思いを伝えて「ほっぺちゃんを一緒に復活させてくれないか」と承諾してもらいました。
そこからUGCも自然に上がってきて、ユーザーが自発的に発信してくれるようになった。結果的に外部の専門性や経験・企画力を借りて、版元としての怖さを越えていけるようになったと思います。

(ファンを巻き込んだ再出発『ほっぺちゃんあげいん』)
ほっぺちゃん15周年!サン宝石 公式動画
ーー こう伺うと、昔からのブランド力を武器にしたサン宝石ではなく、まさに新興のブランドといっても過言ではないですね。
神崎さん サン宝石っていうブランドネームや知名度があると、「すべておまかせで」といわれてしまうこともあるのですが、昔からファンでいてくださった方々を巻き込んで、一緒に動いているというのが現状です。すべてご縁ですね。
ーー 通販時代からのファンが支える中、強みである知的財産を改めて核に据え直していくのですね。
神崎さん そうですね。安くて可愛いものが溢れている現代で、時代の先端を行くブランドに勝てるのかといえば正直難しい。ブランド構築で生き残るには、事業を変化させていく必要がありました。そこで民事再生後にガチャガチャを始めて、『ほっぺちゃんあげいん』のコーナー展開を経て、44年間サン宝石の主軸であった通販を、主軸にするのをやめました。うちで唯一競合に勝てるのは「ほっぺちゃん」だったんです。
POPUP事業を自社でやっているのもかなり特殊で強みだと思っています。物販やイベントも組み合わせてブランドを構築していく必要があると考えていますね。
意思決定のスピードを次の武器に
ーー 民事再生後の大きな意思決定の積み重ねが今の成果につながっていると思いますが、神崎さんが特に心がけてきたことは何でしょうか。
神崎さん そうせざるを得なくてやっている部分もあるし、それがうまく今の時代にはまっているっていうのはあると思います。リソースが足りない中で、状況や市場を見ながらどんどん判断していかないとやりきれないこともあります。
一般のライセンスビジネスの会社は、ライセンスアウトのお話がきても、実際に取り組むのに時間がかかることが多いのですが、うちは人数が少ない分すぐに取り組める体制なんです。 今、サン宝石は外から見ると復活したように見られるかもしれないのですが、まだもう一歩だと思っています。盛り上がるのを待つというより、盛り上げたいんですよね。

(少数チームで取り組むサン宝石の事業再生)
“キダルト世代”へ挑むアニメ化と海外展開
ーー ほっぺちゃんのアニメ化の情報も解禁されましたね。
神崎さん アニメ化は民事再生でスポンサードされた後、すぐに決まっていたんです。クラウドファンディングで「みんなでサン宝石を応援しよう」というムーブメントみたいなものができて、目標金額もすぐに達成して、その熱量を業界の方々が見ていてくださって決まりました。
アニメは「ほっぺちゃん生誕15周年」という節目に、「ほっぺちゃんファンが大人になった今」に焦点があたる内容になっています。勿論、「現役ほっぺちゃん世代」の方々にも違和感なく楽しんでいただけるような作品作りを進めています。

ーー 海外でもほっぺちゃんのかわいいキャラが受けそうですが、海外展開の予定はあるのでしょうか。
神崎さん 海外展開も考えていますが、生産が最大の壁なんです。ほんの一時期、中国工場で量産していたときは月に数十万個と生産できたんですが、こだわりすぎかもしれませんが顔が可愛くなかったんです。そこで日本で手作り生産に戻しました。
民事再生前は生産部門は最大で約30人いたのですが、民事再生後は3人になってしまって。そうなると月に生産できる量も限られてきますよね。海外を目指すイコール量産が必要になるんですが、ほっぺちゃんのように1つずつ手作りでは限界があります。なので、多くの人々に刺さるキャラクターというよりは、本当に好きなファンの方々に刺していく必要があります。アジアと欧米の文化の違いもあるので、そこも考えていかなければなりませんね。
今は、平成レトロブームもキダルト消費もある日本を優先しつつ、海外も考えていきたいです。

(1つひとつ手作りで製造されるほっぺちゃん)
公式サイトは情報発信の基地という位置づけ
ーー サン宝石さんの現在のECの位置づけと今後について教えてください。
神崎さん 通販(EC)は実はすごく悩んでいます。本来、EC機能は必ずしも公式サイトではなくてもいいと思っているんですよ。ただ、うちはライセンスビジネスが主軸なので、物販が主軸になるモールではなく公式サイトが必要だと判断し、構築や変更のしやすさを優先してShopifyを選択しました。利益を取る場所というよりは、SNSに近い立ち位置で、ファンサービスに近いですね。
ーー 自社サイト以外にもモールや他のチャネルは運用しているのですか?
神崎さん はい。草の根活動として、楽天、Amazon、Yahoo!、au PAYマーケット、Qoo10と出店しています。また最近では、TikTok Shopをたちあげました。中の人が動画に出てインフルエンサーとして活動している弊社なので、自分達で売っていったら新しい波が作れるのでは…と期待をこめて色々模索しているところです。
ーー Shopifyでの運用の感触はいかがでしょうか?
神崎さん もう、全部ありがたいです。管理画面のサイト分析もすごくわかりやすいです。初期構築はShopifyに慣れていてAIで加速できる方にやってもらって、その後はアプリをインストールしたり調べながら自分達で運営しているんですが、「素人でもいじりやすいShopify」というだけあって、私でも模索可能です。 更新や入れ替えも社内でやっています。できていない部分も多いので、正直まだまだ伸びしろがありますよ。
ーー 公式サイトでは弊社アプリ「RuffRuff 予約販売」や他のRuffRuffシリーズも導入いただいていますが、神崎さんご自身で導入していただいたのでしょうか?
神崎さん アプリで実現したいことを私が伝えて、社内のEC担当にRuffRuffさんのアプリを導入してもらいました。
生産が間に合わないときや、話題性を戦略的に取りたいとき、売上を前倒ししたいときなどに、予約販売や購入制限を設定したかったんです。特にRuffRuff 注文制限はすごく便利です。以前は倉庫側のシステムで購入制限をプログラムしていたので手間がかかりものすごく煩雑でした。それがShopifyアプリで防げるのはとても助かっています。
Shopifyの前のサイトではこういった設計ができなかったんですが、Shopifyでは簡単に実装できるのがありがたいですね。やりたいことをまずは言ってみる、それをアプリで実現するという流れです。

(サン宝石 公式通販サイト)
ブランド運営はファンありき
ーー これからのECやブランド運営者に求められることはなんだと思われますか?
神崎さん やはり、ブランド運営はファンありきということですね。
アーティストが打ち出す世界観なら、自分の表現したいものを描くのでいいかもしれません。でもほっぺちゃんが15年も続くのは、世の中の皆さんに愛されて、応援されてきたことがすごく大きいんです。親子二世代・三世代で愛されるキャラクターで在りたいと思ったときに、ファンの気持ちが動かないことには始まりません。
民事再生後の出直し期間中だから謙虚に徹するということでもなく、成功したから「使わせてあげてる」というわけでもなく。かといっても、ただのファンサービスでは利益が出せない。
ほっぺちゃんの力を信じてくださる皆さまと、双方が良い結果になるように一緒に盛り上げていただく、という感覚でやっています。

(サン宝石 事業部のみなさま)
民事再生後、サン宝石が描く在り方は、単なる雑貨販売やキャラクタービジネスにとどまりません。時代ごとに少女たちの心をとらえてきた歴史を背にしながら、ファンとともに歩み、知的財産を軸にした新しい事業を紡ぎ直しています。
派手な復活劇ではなく、ファンの方々に背中を押されながら地道なつながりの積み重ね。クラウドファンディング、SNS、そしてガチャガチャや卸展開、アニメ化。そのすべてに「ファンありき」という視点が貫かれています。
王道でなくてもいい。だからこそ、尖っていける。 サン宝石の目指す先には、ほっぺちゃんをはじめとするキャラクターが、世代も国境も越えてかわいいでつながる新しいカルチャーのかたちが浮かび上がっています。