創業70年のハーブ・アロマブランド、株式会社生活の木。マーケティング本部 デピュティゼネラルマネージャーの中村佳央さんは、EC部門と店舗部門を統合し、「ユニファイドコマース」という考え方を軸に、顧客体験の再設計を進めてきました。
前編では、ECと店舗の統合に至るまでの意思決定と、ECだけのお客様と店舗やワークショップを経験したお客様ではLTVに大きな差が生まれるというデータの話を伺いました。
後編では、Shopify移行が組織をどう変えたのか、RuffRuffアプリの活用方法、そしてシンガポールや台湾への越境ECという新たな挑戦まで。
「ECが便利になればなるほど、逆にリアルの価値が上がっていく」。ECがどんどん手軽になっていく時代だからこそリアルな接点にこだわり続ける理由を伺いました。

(株式会社生活の木 マーケティング本部 デピュティゼネラルマネージャー 中村 佳央さん)
Shopify移行と、内側から変わる組織
生活の木がShopifyに移行したのは2024年のこと。それ以前は、ちょっとした機能追加にも数百万から数千万の改修費用がかかるフルスクラッチに近いシステムで動いていました。新しいことにトライするたびに稟議が必要で、EC担当者の仕事の多くは、未払いの催促やチャージバックの対応といった内向きの業務に費やされていました。
Shopifyへの移行は、そのすべてを変えるきっかけになりました。変わったのはシステムだけではありません。担当者の仕事の中身が変わり、チームのモチベーションが変わり、アンテナの張り方まで変わっていきました。
—— Shopifyに移行する前は、どのようなシステムを使っていたのでしょうか。
中村佳央さん(以下、中村さん) 一応パッケージだったんですけど、ほぼスクラッチみたいなシステムでした。ソーシャルログインを入れたいとか、決済方法を追加したいという話になっても数百万、数千万規模で改修費用がかかってきていたんですよ。新しいことをトライするにも稟議がその都度必要で、時間もお金もかかる。アプリを活用して自分たちの手でどんどんトライしていけるプラットフォームということで、Shopifyにたどり着いたんですね。
—— 実際の開発や運用はどのような体制でやっていらっしゃるのでしょうか。
中村さん エンジニアはいないんですが、好きなメンバーがAIを活用しながらガンガン組んでいっている状況ですね。先週も「店舗でチェックインするとおみくじが引けてポイントが貯まる機能を実装しました」って言ってきたり。
ノーコードでカスタムしてどんどんやっていけるところが、グイグイやっていきたいメンバーにはすごくハマるプラットフォームだなと思いますね。
—— おみくじの実装はすごいですね。Shopifyに移行してから、働き方は変わりましたか。
中村さん かなり変わりましたね。前のプラットフォームの時は、未払いのお客様に電話をかけて催促するとか、クレジットのチャージバックが起きて始末書を書くみたいな、内向きの仕事が多くて、EC周りの業務がつまらないって思われてたんですよね。
今は債権もアプリで自動管理してくれているので、空いた時間でメルマガを書く、LINEを書く、新しい機能を実装するという方向にシフトしていって。目に見えて成果が出てくるので、担当者が自分からアンテナを張り出して、今は追いつかないぐらいみんなやってくれています。
—— 今、Shopifyに関わるメンバーはどのくらいいますか。
中村さん ピュアなEC担当者は3人だけなんですよ。ただ、受注、マーケティング、店舗の部隊も含めると、20人ぐらいが何かしらの形でShopifyの管理画面に触れて業務しているという状況です。
データを全部集約して、顧客層や商品の売れ筋ランクが一発で出てくるようになったので、店舗によって入口商品を定義づけて、初心者向けが多いところもあれば、リピーターが多いので玄人商品が多いというところもあったりと、店舗ごとの戦略も変わってきています。
ECは2,000SKUあるんですけど、お店に置けるのは600〜700がいいところなので、ECの方が間口が広く、店舗の方が深く刺さるというイメージですね。

(カテゴリやランキングが見やすく配置されているオンラインストア)
デフォルト機能の壁を、アプリで越える
Shopifyへの移行後、次の課題になったのが「デフォルト機能では対応できない」という壁でした。ロイヤルカスタマーへの先行予約、toBの複雑な条件設定、ワークショップの予約管理。生活の木が取り組む施策が複雑になればなるほど、細かい制御が必要になってくる。その課題をアプリの活用で一つひとつ越えてきました。
—— RuffRuff 予約販売アプリを導入された経緯を教えてください。
中村さん 2つあります。まず、Shopifyのデフォルトだと、事前に在庫設計をして公開することができなかったんですね。あとは、たくさん購入いただいているお客様には、売り切れる前に先に買っていただきたい。
上顧客様こそいい条件で買えるようにしたいということで、探してたどり着いたのがRuffRuff予約販売でした。
他の予約アプリもあったんですが、海外のアプリだと問い合わせが英語ベースだったり返信に時差があったりで、慣れていないメンバーには使いづらい面もあったんですよ。日本製で、問い合わせも日本語で丁寧に、しかも返信が早い。Shopifyの立ち上げにそもそも慣れていなかったので、安心して使えたというのが一番の決め手ですね。
導入時はひたすら質問させていただきましたが、オペレーションが固まってからはほとんど問い合わせせずに使えています。
—— RuffRuff注文制限アプリはどんな場面で使っていますか。
中村さん 6月リリース予定のワークショップや講座の予約で使っています。物を売るだけでなく、リアルな接点を通じてコミュニティを作っていこうというところを強化していて、そこに注文制限がかなり効いています。
ワークショップは物が届かないので代引きNGにする必要があるんですが、そういう細かい設定がShopifyのデフォルト機能ではできないんですよ。体験型の予約を強化すればするほど細かい制御が必要になってくるので、RuffRuff 注文制限のアプリがすごく助かっていますね。

(オンラインストアではセミナーの申し込みも可能)
データが示した、海外という選択肢
国内のEC・店舗統合が軌道に乗り始めた頃、生活の木は海外市場への展開も始めていました。きっかけは、Shopifyのデータが示したある事実でした。
—— 越境ECはどういう経緯で始まったんですか。
中村さん インバウンドで来たお客様が日本で買い物をしても、我々はリピートする商材が多いので、現地に帰って買えないという状態をなんとか解消したいというのがそもそものスタートでした。
Shopifyを入れてお店のインバウンドのお客さんが多いというのがデータでも見えてきて、インスタライブをやっていても「この商品を海外に送ってくれないか」というDMをいただいたりもして。じゃあ思い切ってやってみようということで、シンガポールと台湾、マレーシアあたりを中心に出してみたというのが経緯ですね。
—— 実際に越境ECを始めてみて、気づいたことはありましたか。
中村さん 越境を始めて今一年半ぐらい経ちます。お客様が抱えるお悩みの種類は日本と変わらなかったんですが、むしろ海外の方が深刻なケースが多かった。
例えばシンガポールは国土が小さく、運動する場所も限られているので、生活習慣病が日本以上に深刻なんですよね。糖分やカフェインを控えたいけど美味しいものが飲みたいというニーズが、日本以上に刺さった。SKUを変えているわけではなくて、単純に刺さりやすいマーケットに出ていったという形ですね。
—— 越境ECだけでなく、現地でのリアルな接点も作っていらっしゃるんですか。
中村さん この間台湾でイベントをやってきたんですけど、フリーマーケットみたいなところで、商品もそんなに持っていかず、気軽な気持ちで参加したんですよ。Instagramでは告知していたんですが、事前にしっかりマーケティングをしたわけでもなく。
それでもありがたいことにすごく反応が良くて、1日で半分以上売り切って、夜7時半までお客さんが切れずにヘトヘトになって。日本で来たことがあるというお客さんが3分の1ぐらい、ウォークインが3分の1ぐらいでした。その時のお客さんが今も台湾で買ってくださっていて。直接お話したお客さんはずっと続いてくださる。データだけじゃなく、肌感としてもそれは実感しています。

(海外向けの生活の木 オンラインストア)
ECが便利になるほど、リアルの価値が上がる
Shopifyの導入から越境ECまで、試行錯誤を続けてきた生活の木。うまくいかなかったことも含めて、中村さんが見えてきたこととは何でしょうか。
—— Shopifyを導入して見えてきた課題や、うまくいかなかった点はありましたか。
中村さん 生活の木のお客様は、デジタルネイティブの方が多いというわけではないんですよね。どちらかというと、スマートフォンをどうやって使ったらいいのかといった、デジタルとは真逆のお客様が多いんですよ。なので、Shopifyに乗り換えた時はコールセンターがパンクして半泣きになるぐらい問い合わせが入ったり。
改善が必要だなと感じているのがギフト系です。UIが複雑になって、情報を打ち込む要素が増えると利用率が下がってしまって。ソーシャルギフトも思うように利用が伸びなかった。デジタルで完結してしまう施策があまり上手くいっていないというのが正直なところですね。
—— ECとオフラインを持つブランドにとって、これから何が大事になってくると思いますか。
中村さん ECがどんどん強化されていって、AIもできて、アイディア一つで動かせちゃう時代だからこそ、リアルな接点を持つということが一番大事だとは思っています。
ECで二、三回やりとりしただけのお客様よりも、一回ブランドのファンになっていただいたお客さんはずっと買っていただけるんですよね。店舗をお持ちでない事業者の方でも、イベントをやってみるとか、そういったことができるとその後のECの伸びにも繋がるかと思います。
台湾でのイベントもそうですけど、直接お話したお客さんってずっと続いてくださる。ECが便利になればなるほど、逆にリアルの価値が上がっていく。データでも肌感でも、それは実感しています。
単なるプラットフォームの切り替えが、組織の内側を変え、越境ECへの挑戦へとつながっていった。生活の木の変革は、データと現場の両方から積み上げられてきたものでした。
ECが便利になればなるほど、リアルな接点の価値が上がる。70年という歴史を持つブランドが、今もトライアンドエラーを続ける中で見えてきたことです。
