ECサイトを運営していると、シーズン終了後や商品入れ替えのタイミングで、売れ残った在庫の扱いが課題になりやすくなります。
こうした在庫整理の手段として用いられるのが「クリアランスセール」です。ただし、進め方を誤ると、利益やブランドイメージに影響を与えることもあります。
本記事では、クリアランスセールの基本的な考え方から、開催時期や割引率の決め方、ECサイトでの施策、実施時の注意点までを整理します。
クリアランスセールとは?
クリアランスセールとは、売れ残った在庫や今後販売予定のない商品を整理することを目的としたセールです。語源の「clearance(一掃)」の通り、売上拡大よりも在庫整理や資金回収を重視する点が特徴です。
ECサイトでは、在庫は保有しているだけでは価値を生まないため、販売見込みの低い商品を計画的に手放す判断が必要になります。クリアランスセールは、そのための一つの手段として位置づけられます。
「バーゲンセール」との違い
バーゲンセールが集客や売上拡大を目的とするのに対し、クリアランスセールは在庫整理を主な目的とする点が異なります。対象となるのは、型落ち商品やシーズン終了商品など、今後の販売を前提としない在庫です。
目的を混同すると、価格訴求に依存した運営になりやすいため、それぞれの使い分けを意識することが重要です。
在庫回転率を改善するためにクリアランスセールを行う理由
クリアランスセールの実施判断では、在庫回転率が一つの目安になります。
在庫回転率は、在庫がどの程度のペースで販売されているかを示す指標で、数値が低いほど在庫が滞留している状態といえます。判断の目安として、在庫回転率を確認しておくと整理しやすくなります。
【在庫回転率の計算式】
在庫回転率 = 一定期間の販売数量 ÷ 期間中の平均在庫数量
平均在庫数量 =(期首在庫 + 期末在庫)÷ 2
販売が鈍化している商品をラインナップに残し続けると、保管や管理の負担が増え、全体の運営効率にも影響します。こうした商品をクリアランス対象として整理することで、在庫構成を見直し、売れ筋商品に注力しやすくなります。
在庫を現金化する重要性
在庫が滞留している状態は、すでに仕入れでコストが発生している一方、現金として回収できていないということです。この状態が長引くと、次の仕入れや施策に使える資金が限られやすくなります。
クリアランスセールは、利益率を最優先するのではなく、在庫を現金化して資金の流動性を確保するための判断として位置づけられます。特に決算や棚卸しを控えたタイミングでは、在庫圧縮の必要性を検討する場面も多くなるでしょう。
クリアランスセールの適切な開催時期はいつか
クリアランスセールは、在庫整理を目的とするため、需要が完全になくなる前に実施時期を判断することが重要になります。
ECサイトでは、季節要因や決算期、商品ライフサイクルを基準に検討されることが一般的です。
夏(7月〜8月)と冬(1月〜2月)の決算期
多くのECサイトでは、夏(7〜8月)や冬(1〜2月)といった季節の切り替わり時期に、クリアランスセールが検討されます。夏物商品は秋物への切り替え前、冬物商品は年末商戦後に需要が落ちやすく、在庫が動きにくくなる傾向があります。
また、これらの時期は決算や棚卸しと重なることも多く、在庫状況を見直す必要が生じやすいタイミングです。
商品ライフサイクルを基準に判断する
開催時期は、商品ごとのライフサイクルを基準に判断することも欠かせません。販売開始から一定期間が経過し、売上の伸びが鈍化してきた段階で、クリアランス対象とするかを検討します。
売れ行きが完全に止まってから対応すると、値下げ幅が大きくなりやすくなります。「販売数量が減少している」「再入荷予定がない」「新モデルへの切り替えが予定されている」といった状況では、早めに整理を検討することが一つの判断材料になります。
クリアランスセールの対象商品と割引率の決め方
クリアランスセールでは、「どの商品を対象にするか」と「どの水準まで値下げするか」を事前に整理しておくことが重要です。すべての商品を一律に値下げするのではなく、在庫状況や今後の販売見込みに応じて判断します。
対象商品と除外商品の考え方
クリアランスセールの対象になりやすいのは、今後の再入荷予定がなく、通常販売での消化が見込みにくい商品です。具体的には、シーズン商品や仕様変更予定の商品、販売開始から一定期間が経過し動きが鈍化している商品などが該当します。
一方で、定番商品や継続的に売れている商品まで含めると、通常価格での販売機会を減らし、利益率の低下につながります。 売上データや在庫日数を確認し、「通常価格での販売が今後も見込めるか」を基準に、対象商品と除外商品を分けることが基本です。
割引率は段階的に設定する
割引率は、在庫消化の進捗を見ながら段階的に調整する考え方が一般的です。初期段階では、通常価格では動きにくくなってきた商品を想定し、10〜30%程度から検討します。
一定期間が経過しても在庫が動かない場合は、在庫消化率を確認しながら、割引率を見直します。最初から大幅な値下げを行うのではなく、反応を見ながら調整することで、利益面への影響を抑えやすくなります。
クリアランスセールの効果を高める施策5選
クリアランスセールでは、価格を下げるだけでなく、商品を見つけやすくし、購入までの動線を整えることが重要です。ここでは、ECサイトで取り入れやすい代表的な施策を紹介します。
専用カテゴリー・特集ページの設置
クリアランス対象商品は、専用カテゴリーや特集ページにまとめて掲載するのが基本です。通常商品と混在させると、セール商品が見つけにくくなり、回遊や購入の妨げになります。
一覧では、割引率や在庫数を分かりやすく表示し、在庫整理のためのセールであることを明確に伝えましょう。
「クリアランス」を明示したバナー設置
トップページやカテゴリ上部に、クリアランスセールを明示したバナーを設置することで、セール開催を認識してもらいやすくなります。通常のキャンペーンと混同されないよう、文言やデザインで区別することがポイントです。
過度な煽り表現は避け、特集ページへの導線としてシンプルに機能させます。
既存顧客へのメール配信
クリアランスセールは、既存顧客への案内と相性の良い施策です。過去の購入履歴やカテゴリー別に配信内容を分けることで、不要な配信を減らしやすくなります。
「会員限定」「先行案内」などの形で告知すると、セールの理由を伝えやすくなります。
在庫商品を含めたセット販売
単品では動きにくい商品も、売れ筋商品と組み合わせてセット化することで、販売しやすくなる場合があります。大幅な値下げを避けつつ在庫を減らしたい場合に検討しやすい方法です。
組み合わせは、用途やカテゴリーに一定の関連性があるものに限定しましょう。
送料無料ラインの一時調整
送料無料ラインを一時的に調整することで、複数点購入を促しやすくなります。割引商品に通常商品を組み合わせてもらうことで、客単価の下振れを抑える狙いです。
送料施策は利益への影響が大きいため、期間や条件を限定して実施し、結果を確認しながら調整します。
クリアランスセール実施後の振り返り
クリアランスセールは、在庫を処分して終わりではありません。結果を振り返り、次の仕入れや販売計画に活かすことで、同じ在庫問題を繰り返さない運営につながります。
売れ残った商品の要因を整理する
セール後も売れ残った商品は、単に価格の問題だけでなく、需要そのものがなかった可能性があります。価格、商品仕様、訴求内容、掲載位置などを振り返り、どこに課題があったのかを整理しましょう。
特に、段階的に値下げを行っても在庫が残った商品は、今後も売れる見込みが低いと判断できます。
次回の在庫・セール設計に反映する
クリアランスセールの結果は、次回の仕入れや在庫計画に反映させます。売れ残りが多かったカテゴリーや価格帯は、仕入れ数量やSKU数の見直しを検討する余地があります。
一方、開始直後に売り切れた商品は、割引率や在庫配分が適切でなかった可能性もあります。在庫消化のスピードや販売期間を振り返り、次回のセール条件を調整していきましょう。
クリアランスセールを実施する際の注意点
クリアランスセールを実施する際の注意点を紹介します。
景品表示法上の規制|二重価格・有利誤認
クリアランスセールでは、価格表示や表現が景品表示法の規制対象となる場合があります。 二重価格表示自体が禁止されているわけではありませんが、比較対象となる「通常価格」に販売実績などの合理的な根拠がない場合、不当表示(有利誤認)と判断されるおそれがあります。
また、「最大◯%OFF」「今だけ」「全品」といった表現でも、実際の対象商品や条件と一致していない場合は注意が必要です。値下げ理由や対象範囲を明確にし、表示内容と実態が一致しているかを確認しましょう。
ブランド価値を下げないための運用
クリアランスセールを頻繁に行うと、「常に値下げされるサイト」という印象を与え、通常価格での販売が難しくなることがあります。ECでは価格比較が容易なため、この影響は特に出やすくなります。
このリスクを抑えるためには、
- 対象商品を限定する
- 通常商品とは導線を分ける
- 実施期間を明確にする
といった運用上の工夫が有効です。クリアランスセールは例外的な在庫整理施策として位置づけ、通常販売との切り分けを意識しましょう。
自社ECに合ったクリアランスセールのルールを見直そう
本記事では、クリアランスセールの基本的な考え方から、対象商品の選び方や実施時の注意点までを整理しました。
クリアランスセールは、単なる値下げではなく、在庫や資金の状況を見直すための施策です。実施時期や対象、割引率を曖昧にすると、利益やブランドへの影響が出やすくなります。在庫回転や運用負荷を意識しながら、自社に合ったルールを整えましょう。