<Shopify事業者のインタビュー特集>
M&Aという想定外の出来事を経て、菊地さんが向き合うことになったのは、「家業をどう守るか」ではなく、「自分は経営を通じて何を実現したいのか」という問いでした。
なぜペットフード事業は別法人として立ち上げたのか。なぜECの軸にShopifyを選び、クラウドファンディングという手段を取ったのか。
そこに一貫してあったのは、事業規模や効率の話だけではなく、「誰と、どんな関係性でブランドを育てていくのか」という視点でした。
「これからのブランドは、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を顧客と共有できるかどうかで決まる」
事業の現在地と、その先にある構想。インタビュー後編では、株式会社ぺこふる代表取締役 菊地諒さんが描く、応援されるブランドの条件と経営の意思決定の裏側に迫ります。

(写真中央:株式会社ぺこふる 代表取締役 菊地 諒さん)
インタビュー前編はこちらからご覧ください。
家業か起業かではなく、「経営そのもの」を選び続ける
ーー 家業を継ぎながら、新規会社も立ち上げるケースはまだ多くない印象です。菊地さんご自身、家業と新規事業のどちらに比重を置きたい、といった考えはあるのでしょうか。
菊地さん 父や家族とも話しますし、後継ぎのコミュニティにも入っていますが、僕が明らかに違うのは、家業をやりたいとかぺこふるをやりたいというより、経営そのものに強く魅力を感じているところだと思います。
銀行で働いている時、経営者がとにかく魅力的に感じたんです。祖父も父もそうですが、人生を楽しんでいるというか、活力があって、若く見える。経営すること、事業をつくること自体に、憧れと僕の好きなものが詰まっている。
だから、自分が本当に好きなもので、人生の中で一番の思い出になるような仕事やモノをつくりたいと思っています。
今は、食が自分の中で一番の根幹にあります。だから自分が心から向き合える領域で、ペットフードを全力でやりたい。
一方で、株式会社カキヤも50年間続いてきた価値ある事業で、食のど真ん中にある会社です。改善や立て直しだとか、できることには全力で手を出していきたいですね。
アトツギ経営とスタートアップ、異なるハードルの正体
ーー 実際に経営者になってみて、想像していたことと違った点はありましたか?
菊地さん 正直に言うと、簡単だったのはぺこふるの方ですね。家業で培ってきたノウハウや人脈という下駄を履かせてもらっている部分があるので、思っていたよりもいけるな、という感覚がありました。そこはある程度、計算できていた部分です。
予想と違ったのはスピード感ですね。スタートアップというと、最初から資金調達をして仲間を集め、一気に伸ばすイメージがありましたが、実際には創業者がどこまで自分で動くかで、成長スピードが大きく変わる。
だったら、最初は自力で手堅くやった方が、利益率も含めて堅実に積み上げられる。最初の3年くらいはきちんと基盤を固めて、そこから上を伸ばす方が自分には合っているなと感じました。
スタートから赤字前提で走るより、「中小企業チックなスタートアップ」として始めた方が、結果的にうまくいくんじゃないか、という感覚ですね。
ーー 新規事業はある意味ではコントロールしやすかったと。
菊地さん そうですね。自分の意思決定がそのまま事業に反映される分、改善の打ち手も早い。ぺこふるは、そういう意味で想定内でした。

(ぺこふる主力商品の国産ロールフード)
中小企業経営の本当のハードシングスは「人」にある
菊地さん カキヤの方は、正直ハードしかないですね。銀行員時代の感覚で「これぐらいの期間で改善できるだろう」と思っていたこととは程遠くて。
中小企業の経営は、結局は「人」でしかない。いる人がどれだけやってくれるか、それをどれだけ管理できるかに尽きる。これは想像を超えて大変です。
ーー それは社内の組織の話が大きいのでしょうか。
菊地さん 社内もそうですし、取引先も含めてですね。とにかく属人度合いが強すぎる。仕組み化がほとんどできていないんです。
仕入れ先の担当者が変わったら一気に状況が変わる。業績が急に良くなったり、急に悪くなったり、その振れ幅が大きすぎる。ちゃんと組織として回っていない感覚が強いですね。
だから、最終的には「じゃあ自分が全部やるしかない」という状態になる。これは相当しんどいです。
ーー 多くの中小企業経営に共通する、かなり根の深い問題ですね。
菊地さん 本当に根が深いですよ。下請けをやめて通販に切り替えたら一気に伸びた、とか、粗利が何十%も改善して急に優良企業になった、みたいな成功事例もありますが、ああいう奇跡の一手はそう簡単には起きない。
社員のためとか居心地よくしようと思って2年間続けた結果、業績が悪くなり、信じていた人たちがまとめて辞めていく。そんなことが、直近でも実際に起きましたね。
ーー かなりリアルな話ですね。一方で、ぺこふるの運営はまた違う世界観だと。
菊地さん まったく別世界です。ぺこふるは、僕の思いに共感してくれる人たちと一緒にファンをつくっていく、というやり方が成立する。でも家業はそうはいかない。この二つは、同じ経営でも性質がまったく違います。

(イベント出店でロールフードの試食を提供)
欠品を防ぐための選択から始まった、EC運用とRuffRuff活用
顧客ニーズの拡大に対応する、Shopifyを軸に構築された自社EC。RuffRuffアプリ導入のきっかけは、高度なマーケティング施策ではなく、欠品時の「機会損失」をどう防ぐかという極めて実務的な課題でした。
ーー RuffRuffアプリを導入されたきっかけを教えてください。
菊地さん 最初は、予約販売をやりたかったんです。そもそも、商品が欠品になった時に機会損失しないためにはどうすればいいか調べていたら予約販売があると。これは、ネット通販だからこそできるやり方だなと。
予約販売ができるアプリを探す中で、海外製のものが多い中、まさかの日本企業のアプリ。そして仕様がすごくわかりやすい。これだと導入を決めました。
ーー 他のアプリとも比較されたのでしょうか。
菊地さん 無料期間でいくつか試しましたが、RuffRuff予約販売はとにかくわかりやすかったです。日本企業だし、わからないところもすぐに聞けて、一番早かった。
ーー 注文制限アプリも活用されていますよね。
菊地さん 無駄なオプションがないので、使いやすいですよね。うちは配送コストを抑えるために、一箱に収まる数で注文を制限したくて使っています。あとはお試しセットを「一人一個まで」にしたい、といった細かい制御ですね。
あまり複雑な戦略では使えていないのが課題で、逆に他の人がどう使うのか、より良いECサイトのためにはどうすればいいかもっと知りたいですね。
あとは、最近気になっているのはRuffRuff著者情報アプリ。最初は、著者書いてどうすんだよって思っていましたが、やっていくうちに、SEOとしても同一の著者情報を積み上げていくことの重要性がわかってきました。
ーー おっしゃる通りです。著者情報を明示することで、誰がどの立場で情報を発信・監修しているのかがわかりやすくなりますよね。コンテンツを継続的に積み上げていく上でも、設計として重要なポイントだと感じます。

(RuffRuff注文制限アプリを利用し、お試しセットの販売を行う)
年商1億、ぺこふるが描く成長のマイルストーン
ーー 今後の事業の目標はありますか?
菊地さん まずは年商1億円が第一目標です。1億まで行ければ、そこから海外に乗せていけば10億は十分に狙えると思っています。なので、まずはそこをしっかり取りにいく、という考え方ですね。
ーー かなり具体的なマイルストーンですね。
菊地さん 1億は月商でいうと1,000万円がひとつの目安になりますよね。今期中、もしくは来期には年商1億に届かせたい。海外展開の準備も進めているので、月商1,000万円が見えた段階で、日本だけでなく海外も視野に入れて、5億、10億と5年でスケールさせていくイメージです。
ーー 今ぺこふるさんではクラウドファンディングもやられていますが、クラウドファンディングを立ち上げた狙いを教えてください。
菊地さん 月商1,000万円を目指すには、単に買ってくれるお客さんだけじゃなくて、毎月応援してくれるアンバサダー的な存在が必要だと思っています。
そのためには、商品だけじゃなくて「なぜこの事業をやっているのか」「どこを目指しているのか」をちゃんと伝えないといけない。そう考えたときに、クラウドファンディングが一番、思いを伝えやすい手段だなと感じました。

(クラウドファンディングでは、ネクストゴールに挑戦中)
菊地さん 去年の12月にロールフード市場で有名だった海外ブランドが輸入停止になったんですが、そこからちょうど1年なんです。噂では、この春以降に復活するかもしれないとも聞いています。
だったら、ロールフードのカテゴリはぺこふるが引き受ける、くらいの覚悟で勝負をかけようと思いました。クラファンは、その意思表明でもあります。
仮に復活したとしても、それはそれでいい。市場が盛り上がるなら歓迎です。ナイキとアディダスみたいに、競争があることでカテゴリ全体が強くなればいい。そういう関係性を目指しています。
ーー 「一緒に市場を広げる」という視点は、かなり意識的な選択だと思いますが、そうした発想を持つようになった背景は何かあるのでしょうか。
菊地さん 商工中金で働いていた頃の経験ですが、数字が前提なのはもちろんですが、最終的に融資は「この会社を応援したいかどうか」で判断される部分が大きい。担当者がどれだけ熱量を持って審査部門にピッチできるかで、結果が変わるんです。
結局、事業も人なんだな、と。僕が熱量持ってお金引っ張って融資した会社はだいたいうまくいきました。 お金があればうまく回りやすいですよね。なので、人から好かれて応援される会社になりたい。
もう一つは、家業のカキヤの経験です。大手スーパー向けの商品は、どうしても価格や量で選ばれる世界で、ブランドとして応援されにくい。「うちはこれです」と語れる強みをつくることの難しさを、身をもって感じてきました。
だからこそ、ぺこふるでは、最初から応援される前提のブランドをつくりたいんです。
「大衆向けはいらない」時代に、ブランドが持つべき条件
ーー 菊地さんのお話を伺っていると、一貫した起業家目線を感じますね。今後、ECを軸に事業を展開するブランドにとって、何が一番求められると考えていますか?
菊地さん これからもっと、ブランドは確実に過剰になっていくと思います。正直、もう大衆向けはいらない。どれだけ狭いカテゴリーに特化できるか。その中で、いくつ熱狂をつくれるか。そこが一番大事になってくると思います。
僕自身は「共創資本主義」という考え方にすごく共感していて。これからのブランドは、商品がいいだけじゃなくて、「この事業が何を目指しているのか」「どう進んでいきたいのか」をお客さんがちゃんと知っている状態じゃないと、選ばれないと思うんです。
MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)って、普通は社内に浸透させるものじゃないですか。でも、これからはそれと同じくらい、顧客にも浸透していないといけない。
そうなれば、「一緒にこのブランドを世界一に持っていこう」っていう関係性が生まれる。そこまでいって、初めて強いブランドになるんだと思います。
ーー ECの役割も、単なる販売チャネルではないと。
菊地さん ECはいわば町の集会所みたいな場所であってほしい。とりあえずここに来れば、ぺこふるが何を考えていて、どう大きくなろうとしていて、どこで利益を出して、どう顧客に還元していくのかが全部わかるような開かれた場所にしたいですね。

(ぺこふる公式サイトに掲載されているお客様の声)
ぺこふるが届けたい「食の思い出」とは
ーー 最後に、ぺこふるのお客様に向けてメッセージをお願いします。
菊地さん ぺこふるをやっている根っこには、子どもの頃の後悔があります。
子供の頃から大学生になるまで一緒にいた愛犬に、もっといろんなごはんを食べさせてあげればよかったな、もっと食の思い出をつくってあげたかったな、って。
だから、人と同じように、ワンちゃんにもいろんな思い出をつくってほしい。その中心に食べる思い出があってほしいと思っています。それが、ぺこふるのミッションです。
もし、ワンちゃんの人生をもっと良くしたいと思ってくれる人がいたら、ぜひ一緒にぺこふるを育ててほしい。ぺこふるが一人前になるまでを、一緒に見ていってもらえたら嬉しいです。
家業の再建と、新規事業会社の立ち上げ。
異なる性質を持つ二つの経営に向き合う中で、菊地さんの意思決定は一貫して「人」と「関係性」を軸に組み立てられていました。
目新しい施策よりも、事業を継続させるための現実的な判断の積み重ね。「MVVを顧客にまで浸透させるブランドが残る」という考え方も、理念として語られるだけでなく、日々の運用や意思決定の中に落とし込まれていました。
ぺこふるが目指しているのは、誰とどのような関係性を築きながら事業を育てていくかを明確にすること。派手な成功美談ではなく、日々の判断の積み重ねが応援されるブランドの形をつくっていきます。
