<Shopify事業者のインタビュー特集>
家業を継ぐ——。それは本来、既存の事業を守り、積み上げていく選択。 一方で、起業はゼロから事業を設計し、市場と向き合いながらリスクを取って成長を狙う選択でもあります。
相反するこの二つの経営判断を、同時に引き受けているのが、株式会社ぺこふる代表取締役の菊地諒さんです。
菊地さんは家業の水産食品工場の経営に携わりながら、国産ペットフード事業を展開する株式会社ぺこふるを単独で立ち上げました。
家業の延長線ではなく、あえて別法人として新規事業を構築するという選択。その背景には、事業構造・市場特性・成長戦略を冷静に見極めた判断がありました。
「守るために継ぐ」のではなく、「次の成長をつくるために立ち上げる」。
本記事では、事業承継と新規事業を並行して進める意思決定のプロセス、Shopifyを軸にしたEC戦略について伺いました。

(株式会社ぺこふる 代表取締役 菊地 諒さん)
金融機関から家業、そして起業へ
原材料価格の高騰や気候変動による一次産業への影響。
地方の中小企業、とりわけ食品・水産業を取り巻く環境は、この10年で大きく変化してきました。 事業を続けるだけでは立ち行かず、構造そのものを見直す判断を迫られる企業も少なくありません。
そうした環境変化の中で、金融機関で中小企業の経営と向き合ってきた経験と、家業を取り巻く現実が重なったタイミングが、菊地さんのひとつの大きな分岐点になっていました。
ーー 菊地さんは2023年にペットフード事業を起業されていますが、一方で家業も受け継がれている、いわゆる「アトツギ」でもあります。家業に入られ、起業に至るまでの経歴を教えてください。
菊地 諒さん(以下菊地さん) 株式会社カキヤは祖父が創業した会社で、父が2代目で僕がその長男なので、いつかは自分も継ぐんだろうなと思い、上京して経営学を専攻したり、中小企業の経営者に一番会える仕事というところで、中小企業専門の銀行に就職しました。
経営者ってどういうものか知りたかったんですよね。新卒で商工中金に入社し、6年間、中小企業向けの法人融資を担当していました。
ただ、父や祖父からはずっと「継がなくていい」と言われていました。銀行に入ったなら、安定した道で一生過ごせばいい、と。
ーー そうした中で、最終的に家業に戻ることを決めた理由は何だったのでしょうか
菊地さん 原材料のコスト上昇や、そもそも温暖化で水産物が取れないといったかなり厳しい環境が家業にもきていたので、2023年3月に退職し株式会社カキヤにはいりました。同時に、同じ年の6月に株式会社ぺこふるを創業しました。新規事業の構想自体は、家業に戻る前から準備をしていましたね。
水産事業だけを続けていくのはなかなか難しい、新しい事業も考えなきゃいけないなと。銀行員時代のつながりや市場データを調べていく中で、今後の成長産業として見えてきたのが、ペットフードやペット産業です。

(株式会社カキヤのコーポレートサイト)
M&Aを契機に下した「分社」という経営判断
菊地さん 家業に戻るタイミングで、実は大きな会社の転機があって。大株主だった創業者の祖父が、M&Aでの売却を決めていたんです。
僕が戻ったときには、すでに「売るか、売らないか」という局面に入っていました。ただ、数字を整理できる人が社内にいなかったので、僕が入ってM&Aの契約まわりもまとめることになりました。
ーー 売却となると、事業継承への向き合い方も変わってきますよね。
菊地さん 会社を売却するのであれば、新規事業まで一緒に持っていくことはないなと。むしろ、もしかしたらこの次、自分の本当の家業として始まる可能性があるなら、ここは切り分けるべきだなと。
そこで、ペットフード事業だけを切り出し、別法人として立ち上げたのが株式会社ぺこふるです。前職の退職から2カ月後と急ではありましたがスタートしました。
ーー 一方で、株式会社カキヤの経営自体も菊地さんが引き続き継がれていくわけですね。
菊地さん そうですね。オーナーは変わりましたが、経営自体は引き続き菊地家で行っています。株式会社カキヤがメインの事業で、僕自身も今後はそちらの代表を担っていく形になります。
ーー 水産食品からペットフードと、同じ「フード」で共通点はあったのでしょうか。
菊地さん 食品とペットフードは似ているようで、実はまったく違います。
ペットフードは法規制上、食品ではなく「雑貨」の扱いなんですね。単純な話、食品の工場でペットフードは製造できない。ブランドイメージに対してもいろんな弊害があります。
食品を扱う以上、ペット向けのものとは明確に分ける必要がありました。

(ぺこふる主力商品の国産ロールフード)
既存事業の強みを、新規事業にどう接続したのか
会社をわけるという判断は、既存事業との断絶やリソースの切り離しを意味するものではありません。 むしろ、「事業リスクや規制、成長スピードの異なる領域を切り分けたうえで、活かせる強みは最大限に共有する」という経営合理性にもとづく判断でした。
法人としては明確に分けながらも、家業として長年培ってきた製造・品質管理・サプライチェーンといったアセットは、菊地さんによって形を変えて新規事業に持ち込まれています。
ーー 株式会社カキヤの製造や事業のノウハウが、ぺこふるで活きている部分はあるのでしょうか。
菊地さん ありますね。ぺこふるは基本はOEMですが、カキヤでつながりのあった協力工場で作ってもらっています。
カキヤの50年間の仕入れ先や協力工場、販路といったネットワークを活かせているのがひとつ。
もうひとつは開発において。食品工場として培ってきたノウハウをふんだんに使って、カキヤと同等の品質管理・衛生管理をそのままペットフードにも持ち込んでいます。
食品で使われる配合や、どうすれば旨味が出るかといった知見を活かして、ペットフード業界ではまだ例のないレベルで作っています。獣医と話しながら、わんちゃんが一番食いつく水分量とか、肉と植物のたんぱくの割合をこうすればいいとか。
食品のプロとしての前提がある分、開発スピードが早く、結果として食いつきの良い商品を作れているという手応えはありますね。

(食品と同等の品質管理で製造されるロールフード)
市場変化を利益構造に落とし込み、参入を決めた理由
ーー ペットフード市場の勝ち筋について、菊地さんが参入を決意した当時はどのように見ていたのですか?
菊地さん もともとペットフードは、食品ではなく「雑貨」のカテゴリーなので、食品業界のプレイヤーが本格的に入り込んでいない領域でもあり、原料の扱いや品質基準も、正直かなりグレーな部分が多かったと思います。
大きく変わったのはコロナ禍です。海外も含めて外出や外食が制限され、生活の重心が家の中に戻った。ここで、ペットを「家族」として扱う流れが一気に強まりました。
ーー その変化を受けて、自分たちの勝ち筋をどう感じたのでしょうか。
菊地さん ポイントは、食品のノウハウをそのまま持ち込める余地が大きかったことです。
日本国内で、ペットフード市場の構造変化をいち早く捉えたのがCIAOちゅ~るのいなばさんですね。いなばさんも元々は水産加工ですし、コロナ禍と温暖化の影響で、水産業者がキャットフード市場に参入する動きが一気に増えました。魚を扱っているので親和性が高かったんですね。
同じタイミングで、海外では冷凍食品や、惣菜に近い加工度の高いペットフードも出始めていました。それを見て、「だったら、食品のノウハウ持っていけば、もっと品質の高いものを、より安価に作れる」と考えたんです。
要は、利益率の高いものを出せるとなったところから開発を始めたんですね。

偶然を成果に変えた、展示会という打ち手
ぺこふるの立ち上がりを語るうえで、ひとつの大きな転機になったのが展示会への出展でした。 そして、もうひとつが、競合ブランドの予期せぬ輸入停止。
菊地さん自身はこの出来事を「運だった」と振り返りますが、その偶然を成果につなげた背景には、軸となる判断と準備がありました。
ーー ぺこふるは販売開始2年目で「1万本販売」を達成していますが、これはECサイトではかなり早い立ち上がりの印象があります。戦略的に進めていたことはあったのでしょうか。
菊地さん 戦略はもちろんあるんですけど、ほとんど「運」ですね。
2025年の4月までは、売上も月10万円ぐらいの規模でした。そのタイミングで、東京ビッグサイトで開催される「インターペット」という展示会に、初めて出展したんです。40万円くらいかけて。
ちょうどその頃、うちのメイン商品であるロールフードの開発背景にもなっていたニュージーランドの有名ブランドが、鳥インフルエンザの影響で国内に入らなくなって、急遽、同じ展示会への出展も中止になって。
「代わりの国産品はないのか」と探していた人たちが、一気にぺこふるに流れてきた。イベントの翌日から、売上が一気に月100万円まで跳ね上がりました。
ーー 競合の輸入停止については、事前にはわからなかったんですよね。
菊地さん 全然わからなかったです。むしろ、そのブランドが出ているブースに行って、「国産ならうちがありますよ」って営業しようと思っていたくらいで。
ーー 運とはいえ、掴めるかどうかもやっぱりブランドの流れっていうのはあるんですね。

(日本最大級のペットイベント インターペットに出展)
ーー 展示会というと、卸の販売が拡大したということですか?
菊地さん いえ、その時は卸はやっていませんでした。
インターペットは一般のお客様もわんちゃん同伴で来れる大規模イベントで、僕たちのブースは連日完売状態でした。その場で知ってくれた方々が、その後ぺこふるの自社ECに流れていったんです。
当初は月10万円規模だった売上も、現在は自社ECを中心に卸も組み合わせた形で事業が回っています。
ーー そもそも、売り上げがまだ少ない段階で、コストが大きい展示会に出ようと判断された理由は何だったのでしょうか。
菊地さん ペットフードで一番大事なのは、やっぱり対面の試食なんですよね。わんちゃんが食べないと、基本的に買ってもらえない。
イベントで直接お客様と会って、わんちゃんに食べてもらって、フォロワーを増やす。これが一番はまる感覚がありました。だったら、今年は日本で一番大きいイベントに出よう、と決めました。
足と声を使って、とにかく試食を仕掛ける。その結果、たまたま競合がいなかった。だからバズった、というだけです。
成功した事業者から学び続けるためのEC基盤設計
ぺこふるでは、ブランドの価値や顧客との関係性を育てる場所として自社ECを軸に据える一方で、売上規模を伸ばすための卸チャネルにはあえて制限を設けていません。
少人数体制でも事業成長を実現するために、どこに集中し、どこで広げるのか。その判断は、菊地さんの中で一貫して戦略的に設計されています。
そうした前提があるからこそ、ECプラットフォームの選定も単なるツール選びではなく、事業をどう伸ばしていくかという意思決定そのものでした。
ーー ぺこふるの今のECの戦略や販売チャネルの方針を教えてください。
菊地さん 自社運営はShopifyの自社サイトだけです。一方で卸については制限をかけていません。楽天やAmazonで販売する事業者さんでも、そこは全部卸している形です。
ーー 自社ECは一本化しつつ、卸は広げていくという考え方ですね。
菊地さん そうですね。自社ECはブランドや顧客との関係性をつくる場所で、卸はボリュームを取りにいく場所、という役割分担で考えています。
ーー SNSなどの発信も頻繁にされていますが、全部菊地さんが手を動かしているのですか?
菊地さん 最初はそうでしたが、今はShopify周りは副業の方々に頼み始めました。Shopify全般が1名、インスタ・TikTok・ふるさと納税の運用で1名。あと、業務委託のような形でLINEとペット業界の全体マーケみたいなことをお願いしています。3社プラス僕、みたいな体制です。

(Shopifyで構築されたぺこふるのECサイト)
成功者を徹底的になぞる、Shopifyという選択
ーー 数あるECプラットフォームの中で、Shopifyを選ばれた理由は何だったのでしょうか。
菊地さん ECプラットフォームの切り替えは大変だという話をよく聞いていたので、一度決めたら変えたくなかったんです。そこでまずやったのが、ECをやっている先輩や事業者に片っ端から聞くことでした。
BASEなども含めていろいろ調べましたが、結果的に、年商1億〜5億円くらいのレンジでうまくいっている事業者の利用割合が一番多かったのがShopifyだったんです。
あとは、僕が一番尊敬してる大学の部活の先輩でフィットネスブランドをやっている人がいて、その人もShopifyを使っていた。一番の決め手はそこですね。
成功してる事業家さんと同じ環境で、同じノウハウを聞ける状態をつくりたかったという感じですね。
ーー 話を伺っていると、菊地さんの意思決定の軸が一貫して「起業家視点」だと感じます。Shopifyが使いやすい、ノーコードで始められるといった理由はよく聞きますが、「同じフェーズで事業を伸ばしている人に、継続して聞ける環境をつくる」という観点でプラットフォームを選ばれているのはとても印象的ですね。
家業の再建と、新規事業の立ち上げ。 相反する二つのテーマに同時に向き合う中で、菊地さんが一貫して重視してきたのは、「どう守るか」ではなく、「どう伸ばすか」という視点でした。
市場変化を利益構造に落とし込み、事業として成立する勝ち筋を描くこと。そして、自社ECを軸に据えながら、同じフェーズで事業を伸ばす事業者から学び続けられる環境を整えること。 ShopifyをはじめとしたEC基盤の選択も、そうした事業設計の延長線上にあります。
では、その先に菊地さんが見据えているブランドの姿とは何か。 顧客との関係性をどう築き、どう共に育てていくのか。
インタビュー後編では、クラウドファンディングの狙いや「MVVを顧客にまで浸透させるブランド」という視点、ぺこふるのこれからについて伺います。
