<Shopify事業者のインタビュー特集>
NTTデータ、ランサーズ、メルカリとIT・インターネット業界でキャリアを積んだ後、2022年にBeverich株式会社を創業した木下慶さん。ノンアルコールビールの輸入事業でD2CとECのノウハウを積み上げ、メーカーの製造停止という外部要因によるピボットを経て、今度はメンズスキンケアブランドという新たな事業へと動き出しています。
前編では、「事業ありきではなく経営ありき」という軸で事業を選び、ピボットを経て次のブランドへ向かうまでの意思決定を伺いました。
ShopifyとAmazonの使い分け、RuffRuffアプリへの評価、3年間の経営で見えてきた失敗の捉え方。後編では「取り返しのつかない失敗さえしなければ、全部学びになる」という言葉の背景にある思考と、これからのD2Cブランドに必要なことを伺います。

(Beverich株式会社 代表取締役 木下 慶さん)
Amazonを主軸に据えた、次のチャネル設計
D2Cブランドの立ち上げにおいて、チャネル設計は事業の収益性を大きく左右します。自社ECとモール、どちらに力を入れるか。卸をどのタイミングで広げるか。定期購買をどう設計するか。その判断一つひとつが、ブランドの成長スピードと利益率に直結します。
Beverichでは、最初の事業でShopifyとAmazonを使い分ける中で、予想外の気づきがありました。手数料の高さで敬遠されがちなAmazonが、条件次第ではShopifyよりも収益性が高くなる。その経験を踏まえて、次のメンズスキンケアブランドではどのようなチャネル設計を描いているのでしょうか。
—— 次のメンズスキンケアブランドでは、チャネル設計をどう考えていますか。
木下慶さん(以下、木下さん) 最初からShopifyとAmazonの両方をやる予定ですが、どちらかというとAmazonに力を入れてやっていこうと思っています。
前の事業でAmazonがすごく良かったんですが、あれは結果論で、指名買いしてくれる方が先にいたからうまくいったんですよね。次はゼロからのスタートなので、Amazon内の広告を打って、レビューをしっかり溜めていくなど、Amazonの中でしっかり積み上げていきたいと思っています。
—— 前の事業でAmazonが想定以上に機能した背景には、何があったのでしょうか。
木下さん 理由が2つありました。一つはもう買いたい人がすでに集まっていたので、集客しなくて良かったということですね。Amazonは後からやり始めたので、ある程度ファンの方がブランドを知っていて、どこかで飲んで美味しかったな、また飲みたいなという状態で探してくれていた。指名買いだったので広告費がかからなかったのが大きかったです。Shopifyは販売手数料は低いんですが広告費をかけていたので、そこの差分がありました。
もう一つは、飲み物ならではだと思うんですけど、FBAを使うとAmazonの方が送料が安かったんですよね。Shopifyの場合は外部倉庫にお願いしていて、そちらの宅配便の送料よりもFBAの送料の方が安かった。なので、結局手数料の差があったとしても、広告費と送料でトントンか、むしろAmazonの方が良かったという状況でした。
—— 定期購買についてはどう考えていますか。
木下さん まず商材に必須性があるかどうかが大きいと思っていて。男性が必ずしもスキンケアをやっているわけじゃないんですけど、やっている人からしたらやらないっていう選択肢がもうなくなっているので、何かしら買い続けるっていうニーズはまずある。そういう商材選びとして定期購買がマッチするかどうかはあるのかなというのが一つですね。
あとは、どうせ買い続けるのであればディスカウントで買えた方がいいよねと選んでいただけるっていうのはあると思います。
肌感覚になっちゃうんですけど、中高年男性は一回買ってこれいいなってなったら同じものを使い続けるんじゃないかなと思っています。女性と比べて色々試したり変えたりっていうよりは、これと決めたら使い続けるっていう傾向がある気がしていて。そこはLTVという意味でも期待しているところです。
—— 前の事業では積極的に営業されていた印象ですが、卸展開は考えていらっしゃいますか。
木下さん 前の事業では結構頑張って営業もやっていて、卸がどんどん拡大していったというのがあったんですよね。今回はあまり営業はせずに、とりあえず頑張ってオンラインで存在感を出して、声をかけていただけたらいいなと思っている程度です。
いずれはドラッグストアさんとか東急ハンズさんとかロフトさんを狙っていきたいなとは思っているんですけど、そこは本当に厳しい道だと思っていて。
ドラッグストアとかも他社製品がいっぱいあるじゃないですか。そこに入れてもらうのはなかなか難しいので、まずオンラインでしっかり積み上げてから、という順番で考えています。

(新商品のHOPEN ALL IN ONE GEL)
プロダクトの質で選ぶ。RuffRuff活用とShopifyアプリの実態
Shopifyを活用したECの運営において、アプリ選定は収益性に直結する判断になります。Shopifyのエコシステムには数多くのアプリが存在しますが、APIの制限によって機能の差別化が難しく、費用体系だけで選ばれてしまうことも少なくありません。
事業を作りながら自身でサイトを構築してきた木下さんは、どのような基準でアプリを選び、ストアを作り上げてきたのでしょうか。
—— Shopifyのアプリ選定はご自身でされていたのでしょうか。
木下さん 最初の構築から全部自分でやっていましたね。いろんなアプリを入れたり、発送通知とかも最初は自分でポツポツやっていました。
—— その中でRuffRuffアプリシリーズを使ってくださったきっかけを教えてください。
木下さん 目次とか記事のSEO強化をしている中で、著者情報をつけたいと思って検索したら「RuffRuff著者情報」が出てきたんです。使ってみて、本当にお世辞ではなく使いやすいなと思いましたし、困ったことがパッと思いつかないぐらいカバーされているなという印象でした。
会社を見た時にいろんなアプリを展開されているので、ちゃんとShopifyアプリに向き合っているな、矜持があるなっていうのを感じたというのが大きいですね。信頼感があったという。
—— RuffRuffに限らずShopifyアプリ全般についてはどう感じていますか。
木下さん 公開されているAPIでできることできないところが結構あって、アプリ側もやりたいんだけどAPIがないからできないっていう話になることはありましたね。そうするとアプリの中でも差別化がしにくいと思っていて。いろんなアプリが出ても結局機能って一緒だなと思っていて、そうなるとやっぱり費用体系とかで決めちゃうというのが正直なマーチャントの気持ちですね。
ただ、RuffRuffアプリはそこが違っていて。私がプロダクトマネージャーをやっていたので、プロダクトをよく見るっていうのはあるんですけど、UXがいいなと感じました。いろんなアプリを展開して、そのロゴを色変えるだけで展開している時点でもうなんかセンスがいいなと感じたり。
細かいUXとか操作感の差っていうのが出てくるところがあって、そういうのが選定理由にも入ってきましたね。費用体系だけで選んでしまいがちな中で、プロダクトの質で選べたっていうのは、自分がプロダクト側の人間だからこそかもしれないですけど。

(Shopifyで構築されたHOPEN公式サイト)
取り返しのつかない失敗さえしなければ、全部学びになる
経営者にとって、失敗をどう捉えるかはその後の判断に大きく影響します。取り返しのつかない失敗と、学びになる失敗の違いをどう見極めるか。今までの経営を振り返って、木下さんが見えてきたことを伺いました。
—— 3年間の経営を振り返って、失敗だったと思うことはありますか。
木下さん 失敗はいっぱいありましたね。ただ、取り返しのつかない失敗をしてしまうと良くないと思うんですけど、取り返しがつくものであれば学びになると思っています。
今振り返ってみると、慎重に考えたら避けられたのかもしれないけど、その時やってしまったことで失敗になったとしても、別に取り返しのつかないものではなかったから、結果それをその次やらなくていいということになる。割とポジティブに考えていますね。
—— 具体的にはどんな失敗がありましたか。
木下さん 一つ振り返ると、1期目ってやっぱりわからなかったので何でもやっていたんですよ。いろんな営業してみたりとか、マーケティングしてみたりとか。マーケ費用や業務委託費用がすごくかさんだのが1期目だったんですけど、結果論で振り返ると積み上がらないものも多かった。
でも、その学びを生かして、2期目・3期目で結構グッとやることをスリムにして、その結果収益性も上がっていったというのが、この4年間の経営を振り返った一つのハイライトになっています。何でもやってみた結果、何が意味があって何が意味がないのかが見えてきたというか。
最初からスリムにやっていたら、逆にそれも見えなかったかもしれないので、一概に失敗とも言い切れないんですけどね。
—— 最後に、これからのD2Cブランドに必要なことは何だと思いますか。
木下さん 二極化していくと思っています。汎用品で世界中どこでも買えるもの、コカコーラみたいなものは残ると思います。どこでも買えて、ある程度安い価格で、のような。
もう一個は、中身や製品の品質にこだわって、価格はそれなりになるけど、それに応じた中身であるということを納得してファンになり買い続けていただくっていうブランドがしっかり残っていくのかなと。
今回のスキンケアブランドも、そちらを目指したいと思っています。価格も月1本あたりドラッグストアで買えるものよりは高くなるんですけど、その分ちゃんと成分や配合にこだわっています。安くはないけど、それに見合った中身であるということで納得して選んでいただけるブランドにしていきたいですね。
事業が止まっても前を向けたのは、「経営がやりたかった」という最初の軸がぶれていなかったから。1期目の失敗を棚卸しして、課題をそのまま次の商材選定の軸に変えた。ShopifyとAmazonの役割を設計し直し、信頼できる人と動く。
派手な成功美談ではなく、一つひとつの判断の積み重ね。木下さんのメンズスキンケアブランドの行方を、引き続き注目していきたいと思います。
