【ストアインタビュー前編】ゆりかごから墓場まで。70年ブランドが挑むオムニチャネルへの転換:株式会社生活の木 マーケティング本部 デピュティゼネラルマネージャー 中村佳央さん

【ストアインタビュー前編】ゆりかごから墓場まで。70年ブランドが挑むオムニチャネルへの転換:株式会社生活の木 マーケティング本部 デピュティゼネラルマネージャー 中村佳央さん

ハーブ、アロマテラピー、オーガニック。

これらを「ブーム」として消費する事業者がいる一方で、トレンドが生まれるずっと前からその価値を問い続けてきた企業が株式会社生活の木です。

創業70周年を迎える同社は、1970年代にハーブを日本に持ち込み、安全な使い方を広めながら市場そのものを育ててきました。「三方よし」お客様、社員、そして生産者がいずれも豊かになる事業を続けるという、ぶれない軸がそこにはあります。

近年、EC事業本部の立ち上げから店舗との統合まで、デジタルと店舗を横断する「ユニファイドコマース」への転換を一手に担ってきたのが、マーケティング本部 デピュティゼネラルマネージャーの中村佳央さんです。

ECだけで購入したお客様の平均LTVが1.3。店舗に一度来たお客様は3.7。店舗でワークショップに参加したお客様は5.7。このデータが示すのは、「ECは入口にすぎない」という事実です。

「ECは売上を取る場所ではなく、利便性を最大化させる場所」。老舗ブランドがどのようにデジタル転換を進めてきたのか、その意思決定のプロセスとShopifyを軸にしたEC戦略の実態を伺いました。

(株式会社生活の木 マーケティング本部 デピュティゼネラルマネージャー 中村 佳央さん)

(株式会社生活の木 マーケティング本部 デピュティゼネラルマネージャー 中村 佳央さん)

創業70年、変わらない軸と変わり続ける事業

—— まず、生活の木の創業から現在に至る経緯を教えてください。

中村佳央さん(以下、中村さん) 生活の木はイメージとしてはハーブやアロマテラピーが強いかなと思うんですが、もともとは陶器を売っていた会社なんです。

工場が岐阜県の瑞浪市という美濃焼の産地にあるんですが、その頃からライフスタイルを売るというのが会社のコンセプトでした。ただ、陶器は割れない限り買い替えないビジネスなので、もっと継続的なものということで、1970年代にハーブを見つけて日本に持ってきて、安全な使い方を広めてきました。

自然、健康、楽しさ、植物や自然の恵みを使いながら、心の豊かさを提供するブランドです。

—— 中村さんご自身は新卒でご入社されたと思いますが、入社を決めた時の印象を教えてください。

中村さん 私は新卒で入社し、今13年目ぐらいなんですけれど、すごく正直な会社というイメージがありました。

例えばある商品が急に売れ出して、お客様からもっと欲しいという声が増えても、自然の産物なので生産者さんにすぐ増やしてくれとはお願いできないんです。だからこそ生産者さんとも継続的にお取引して、長く良い関係を保っていく必要がある。お客様、社員、生産者、それぞれにきちんと利益が出る形でやっていくというのが根底にあって、そこがすごく正直な会社だったなという印象があります。

あとやはり、これだけテクノロジーが発達した世の中であっても、自然や健康は人間の根源で必要としている部分なので、普遍的な価値を提供し続けていく会社なんだなというイメージはありましたね。

70周年を迎える株式会社 生活の木

(70周年を迎える株式会社 生活の木)

ゆりかごから墓場まで。顧客と歩むLTVの設計

1976年のハーブ・ポプリブームで小学生だった世代が、今や40〜50代のコア顧客になっている。生活の木の歴史は、そのままお客様の歴史でもあります。世代を超えて支持され続けるブランドは、どのようにして顧客との関係を設計してきたのでしょうか。そして今、若年層という新たな課題にどう向き合っているのでしょうか。

—— 長い歴史の中で、顧客層の変化を感じることはありましたか。

中村さん 我々のハーブブームの第1創生期というのが、1976年ぐらいにハーブで作ったポプリを「なかよし」という少女向け漫画雑誌で紹介したところ、読者の小学生に火がついて、そこでハーブというものが一気に広まっていって。実は、今のメイン顧客層はこの当時小学生の層なんですよ。40代から50代ぐらいが今コアになっていて、この方々の2世代目も入ってきています。お母さんがハーブ好きだったからという社員も増えてきていますね。

ただ一方で、若年層はハーブアロマという切り口ではなかなか取れていない状態で。そこで睡眠のお悩みや、ホルモンバランスの乱れ、コロナ禍以降のオフの切り替えがうまくいかないといったお悩みを入口に、男女問わず20代・30代から入ってきている第2創生期みたいな形にはなっていますね。

—— ブランドの信頼をどう守ってきたのでしょうか。

中村さん ハーブやアロマって、ちょっと言い方悪いですけど、怪しい葉っぱとか怪しい液体っていうイメージもあるんです。実際に、アロマという言葉を利用してちょっと変な使い方をされているケースとかもあったり。

そのため、会社としてアロマテラピー検定やメディカルハーブ検定みたいな、安全性と正しい知識を使えるための協会の設立にも携わり、今で言うとインフルエンサー的な形で講師の方を養成していって、きちんと正しい使い方と一緒にアロマハーブを届けていこうというのが、第1創生期からずっと続く流れです。

—— 長期的にお客様と関わり続けるという考え方は、どのように生まれたのでしょうか。

中村さん 一人の人生であっても、ライフステージによって様々な課題や悩みが変わってくると思っています。我々としては、物を届けるだけじゃなくて、最終的には心まで豊かにしようというところが会社の考えの根幹にあります。

わかりやすい例でいうと、岐阜県の瑞浪市の高校生と一緒に事業をやったりもしているんですね。受験期の健康維持から始まって、子育てのタイミングで産前におすすめのハーブティーに戻ってきたり、ご年配になってからは心身のケアやQOLの向上に役立つ商品を使ったりと。

ゆりかごから墓場までじゃないですけど、あらゆるステージにその時最適なソリューションでお手伝いしていこうというのが、一人のお客様に対してずっとやっていこうというスタンスではあります。

—— LTVという観点での設計ですね。実際の数字感はいかがですか。

中村さん 本当にありがたいことに、LTVは基本的に高いんですよ、やっぱりリピーターが多いので。一番多い方だと年間170回というお客様もいらっしゃるので、本当にいいお客さんに支えられているなという印象がありますね。

ECと店舗を統合した理由

(生活の木 原宿表参道店)

(生活の木 原宿表参道店)

百貨店やショッピングセンターを中心に100店舗近くを展開し、対面での接客でブランドの世界観を届けてきた生活の木。しかし地方百貨店の閉店や商習慣、商圏の変更によるスクラップ&ビルドの閉店が相次ぎ、コロナ禍で一気にオンライン化が進む中、「店舗は広告塔」という考え方だけでは立ち行かなくなってきました。

2022年、EC事業本部という独立した部門が立ち上がり、中村さんはその変革の中心に立つことになります。

—— ECと店舗の役割について、どのような位置づけで考えていらっしゃるのでしょうか。

中村さん 元々、店舗は広告塔だという考えを持っていたんですね。最大規模で140店舗近くまで、百貨店・SC中心に出店していました。ただ、時代の流れとともに、地方百貨店が自体なくなるケースだとか、コロナ禍で一気にオンライン化が進んだんですよね。

今まではオフライン、対面での接客が主ではあったんですが、これだけオンラインやデジタルのメディアが発達していく中で、ECというところをきっかけに接点を持つことが必須だということで、2022年にEC事業本部という独立した部門ができたんです。

それ以前のECは、toCとtoBがごちゃ混ぜの状態で、ユーザビリティを全く意識していなかったんです。そこでShopifyにリプレースをして、2024年にリニューアルをしました。スマレジを通してShopifyに購入データや履歴が全部入ってくるようになって、見えてきたのがお客さん自体がすでにオムニチャネルを進めているという事実でした。新しい香りが出たら店舗で体験して、重いものはECで買う。LTVの高いお客様ほどそういう買い方をしていたんですよね。

—— データでお客様の買い回りが見えてきたことで、組織のあり方も変わったのでしょうか。

中村さん もともとECと店舗はそれぞれ独立した部署で、別々の予算目標を持っていたんですね。だからデータ上は同じお客様が店舗でもECでも買っているだけなのに、店舗側のスタッフからすると「ECに売上を取られている」という感覚になってしまっていて。

同じお客様に最適なサービスを届けたいのに、社内で同じ方向を向けない。そこでECと店舗を同じ部門に統合してしまったんですよ。同じ予算を持って、お客様の都合を最優先に動こうと。

ここでECの役割も変わりました。売上を取る場所ではなく、利便性を最大化させる場所として位置づけ直したんですね。お店が休みの間も買えるよとか、定期購入でお得に買えるよとか。ECが売上を取る場所から、お客様の利便性を支える場所に変わった。そういう位置づけになりましたね。

—— かなりドラスティックな判断だったと思いますが、社内の反応はいかがでしたか。

中村さん ほぼ揉めました。やっぱり、今までやっていたやり方とまるっと変わるので、反発意見もありましたね。しかし、同じことをしていては成長を見込めないということと、何よりもデータでお客さんが買い回りしているというのが見えたので。

お客様のためにどうしたら一番いいかというところで説得をしました。社内も最初の頃は反発ありましたけど、今はもうほとんどないですね。

店舗で接点を設けられるので、店舗が伸びれば伸びるほどECも伸びてくれますし、逆もそう。今はお互いに補完し合い、助け合いみたいな感じになっています。今は店舗売上・EC売上という分け方もしていないですし、本当の意味でチームになれたかなという感じですね。

オンラインで出会い、リアルでファンになる

生活の木 オンラインストア

(生活の木 オンラインストア)

—— 先ほど店舗で体験してECに来るお客様がいるとおっしゃっていましたが、逆のパターンもあるのでしょうか。

中村さん 逆もあります。広告を回すところは完全に新規に振っているので、興味関心があった方にはECの方でアプローチをします。

ECだけで買い続けているお客様と、店舗に一度来ていただいたお客様、さらにワークショップに参加していただいたお客様とでは、LTVに大きな差が出てくるんですよ。なので一回ECで買った方には、その後のサンクスメールやLINEのフォローアップで、店舗でこんな面白いことできるよということで、店舗に送るようにしていますね。

—— EC運営において、成功したなと思われた施策があれば教えていただけますか。

中村さん 当たり前のことかもしれませんが、ノイズになる情報を送らないということなんですよね。購入履歴や閲覧履歴からセグメントを切れるので、例えば僕が、某大手衣類メーカーさんで買い物した後に、ブラトップのプッシュ通知が来たら、「いや買わないよ」って思うじゃないですか。その時点でブランドへの信頼が下がってしまう。

ラベンダーの商品を購入いただいたのであれば、くつろぎにはこういうハーブティーをおすすめですよというような、関連性がある情報をセグメントで出していく。LINEの配信料金も高いので、セグメントを切ることで開封率・反応率も上がりますし、お客様にとっても自分のことを見てくれているという印象になる。これは他の企業さんでも取り入れられると思っています。

—— 生活の木さんならではの強みはどのようにお考えでしょうか。

中村さん やっぱり店舗を持っているというのは強いですね。動画やTikTokショップなどオンラインの通路も色々ありますけど、直接対面でお話をして、その人に最適なものをお手伝いするというのは、店舗の力というのが強い。80数店舗を運営している強みをECと融合させていくというのが、うちならではの強みかなと思っています。

 

 

70年という歴史を持ちながら、データを軸に組織をアップデートし続ける生活の木。店舗とECを「競合」ではなく「補完」として捉え直したこの判断は、お客様の買い回りというデータが後押ししたものでした。

Shopifyへの移行が組織をどう変えたのか。RuffRuffアプリの活用と越境ECへの挑戦、そして中村さんが考えるこれからのブランドのあり方は後編で伺います。

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