【ストアインタビュー前編】事業ありきではなく、経営ありき。ピボットで課題を設計図に変える経営者の意思決定:Beverich株式会社 代表取締役 木下慶さん

【ストアインタビュー前編】事業ありきではなく、経営ありき。ピボットで課題を設計図に変える経営者の意思決定:Beverich株式会社 代表取締役 木下慶さん

<Shopify事業者のインタビュー特集>

ノンアルコール事業から、メンズスキンケア事業へ。

伸びる市場を見極め、D2Cという手法で参入し続けているのが、Beverich株式会社代表取締役の木下慶さんです。NTTデータ、ランサーズ、メルカリとIT・インターネット業界でキャリアを積んだ後、2022年にBeverich株式会社を創業。物販未経験のまま飛び込んだ最初の事業ではD2CとECのノウハウを積み上げました。

しかし、メーカーの製造停止という自社ではコントロールできない理由で、事業は終止符を迎えることになります。それでも木下さんは、「事業ありきではない経営」の軸をぶらさず次にすすみます。

3年間で見えてきた課題を棚卸しし、その課題をそのまま次の商材選定の軸に変えて、今度はメンズスキンケアブランドという新たな事業へ。ゼロから立ち上げ、学び、また立ち上げる。その意思決定のプロセスと、Shopifyを軸にしたEC戦略について伺いました。

Beverich株式会社 代表取締役 木下 慶さん

(Beverich株式会社 代表取締役 木下 慶さん)

やりたかったのは経営。事業テーマはその後に来た

—— 最初に、木下さんのご経歴と、Beverich創業までの経緯を教えてください。

木下慶さん(以下、木下さん) もともと大学院でコンピューターサイエンスを専攻していて、新卒でNTTデータにSEとして入社しました。その後、ランサーズというクラウドソーシングのスタートアップに転職して、次にメルカリに転職して、一貫してIT・インターネット業界でキャリアを積んでいます。

Beverich(ビバリッチ)は2022年の9月に立ち上げました。ランサーズとメルカリの2社でいろいろ経験する中で、自分でも事業をやってみたいなと思ったことがきっかけです。メルカリも在籍が7年と結構長くなっていたので、ここらで新しいことをやろうということで創業しました。

社名は飲み物の「ビバレッジ」と「リッチ」の2つを合わせた造語で、最初にやっていたノンアルコールビールの輸入事業からつけています。Shopifyから小売りを始めて、その後AmazonやモールにもECを広げていきました。

—— 事業テーマありきの起業ではなかったのですね。

木下さん そうですね。起業の準備の中で出会ったのがノンアルコールビール事業。どちらかというと、経営や創業みたいなことがやりたいというのが先にあって、その次に事業が来たっていう順番です。

—— 今振り返られて、その順番は正解だったと思いますか?

木下さん そうですね。事業ありきではなく、「起業したい」という気持ちから始めたのは、個人的には良かったなと思っています。

ノンアルコール事業は、残念ながらメーカーの終売で事業が止まってしまったんですが、「やりたい」と思って起業してると、それが終わったときは結構喪失感が大きいと思っていて。

もちろん3年間育ててきたところだったので、終わってしまったのは悲しかったですし、ビジネスとしてもすごい痛手だったんですけど、気持ち的にはそんなに落ち込んでないというか。また新しい事業やろうと前向きになれているっていうのは良かったと思いますね。

「固執しても仕方ない」終売という決断

事業のピボットは、多くの経営者が一度は直面する選択。どのタイミングで、どのように決断するか。その判断に正解はなく、結果はすべて経営者が引き受けることになります。スタートアップの失敗要因を分析した複数の調査でも、ピボットのタイミングと方向性の見極めが、事業の生死を分ける要因の一つとしてあげられています。

Beverichの場合、ピボットのきっかけはメーカーの製造停止という外部要因でした。自社ではコントロールできない理由で事業が止まることは、経営者にとって最も判断が重くなる局面。木下さんはどのように決断したのでしょうか。

—— メーカーの終売はやむを得ない状況だったと思いますが、次へ切り替えるまでの判断はどういう流れだったのでしょうか。

木下さん メーカーさんから止めますって言われて、すぐ「わかりました」と言ったわけでもなくて。これだけ需要があるからとか色々話したんですが、そこはやはり叶わなくて。

もう終わってしまうことが決まって、自社がコントロールできる部分ではないので、固執してても仕方ないなと切り替えました。それであれば、もう次のことに時間を使うとか前向きにしようという。

戦略というか性格かもしれません。もう本当に無理だとわかった時点で、なるべく早くお客様にも公表して、そこから数ヶ月で在庫を売り切りました。

—— 改めて最初の事業を振り返った時、参入してみて初めて見えてきたことはありましたか。

木下さん キャリア的にもずっとアプリを作ってきたので、ものを売るっていうことが初めてだったので最初は何も見えていなかったですね。

やってみて見えてきた事業の課題が5点ありました。自社で作っていない他社のものを仕入れているということ、輸入品であること、重いこと、賞味期限が1年と短いこと、そして粗利率があまり良くないということです。どうしても海外の輸入品で原価が高いし、自社で作っていないところがネックでした。

ただ逆に、収益ややりやすさを考えるとみんなが避けたいものだったからこそ、やっている人が少なかったってところもあるんですよね。ある意味ニッチで競合がなくて、狭い範囲だけど買ってくれる人がいた。素人だったから参入できた、でも素人だったから見えなかった、っていう両面がありましたね。

最初の事業の課題を反転させて、次の商材を選ぶ

最初の事業で3年間かけて見えてきた課題を、木下さんはそのまま次の商材選定の条件に変えました。失敗を失敗のままにせず、次の設計に活かす。そしてもう一つ、自分自身がターゲットであるかどうかという視点も、木下さんの商材選びには一貫してあります。

—— 次の事業としてメンズスキンケアを選んだ理由を教えてください。

木下さん 最初の事業の5つの課題を改善しにいこうと思いました。スキンケア製品は自社ブランドとして展開するので、国内製造だし、軽いし、化粧品の使用期限は長い、粗利率も飲み物よりは確保できる。まずそこが大きかったですね。

—— 木下さん自身、スキンケアにもともと思い入れがあったのでしょうか。

木下さん 私自身がもともとスキンケアを全くやっていなかったのですが、年齢を重ねるにつれて気になるようになり、妻のアドバイスをもらってやり出したら、すごく調子が良くなったことを実感したんです。それ以来、自分の中でスキンケアは優先度が高いものになったんですよね。

ノンアルコールビールの時も、私が禁酒をしていたこともあったんですが、やっぱり自分が興味があるものをやった方が解像度や理解も高い。ターゲットだからこれが欲しいと思えるし、やっていて楽しいというのがモットーとしてありますね。

—— ビジネスの可能性として、既存のメンズスキンケアブランドが多い中で、参入の余地はどう考えられたのでしょうか。

木下さん 市場全体としてはまだまだ買う人が増えると思っているので、そこに入っていけるかなと思っています。

あとは弊社の商品は「中高年向け」と結構尖っているんです。既存のブランドって、あまり年代を絞っていないんですよね。男性っていう括りはあっても、中高年に特化しているものはまだ少ない。

メンズスキンケアブランド「HOPEN」初の自社製品「HOPEN ALL IN ONE GEL」をリリース

木下さんが語る「中高年男性の肌に特化したスキンケア」。2026年3月28日、HOPENブランド初のプロダクト「HOPEN ALL IN ONE GEL(ホープン オールインワンジェル)」が発売されました。

HOPEN ALL IN ONE GEL(ホープン オールインワンジェル)

—— 新商品のスキンケアブランドの特徴を教えてください。

木下さん 処方も中高年男性の特徴を捉えて開発しています。中高年男性の肌は、脂でテカるけど乾燥もするという、すごい難しい肌なんです。そこを両方ケアできる配合にしています。価格も月1本あたりそれなりの価格になるんですが、その分厳選した成分がしっかり入っています。

 

HOPEN ALL IN ONE GELついてはBeverich株式会社のプレスリリースをご覧ください

自社ECの軸にShopifyを置いた理由

小売りから卸、モール展開まで、Beverichのオンライン販売の起点には一貫してShopifyがありました。数あるプラットフォームの中からShopifyを選んだのはなぜか。そしてECを運営する中で、どんな工夫を重ねてきたのでしょうか。

Shopifyで構築されたHOPEN公式サイト

(Shopifyで構築されたHOPEN公式サイト)

—— ECプラットフォームは一貫してShopifyを選ばれていますが、その理由を教えてください。

木下さん 私がメルカリにいた頃から、BtoCのECプラットフォームが盛り上がっているのをすごく間近で見ていました。さまざまな国内プラットフォームがある中で、やはりある程度グローバルで使われている規模感というのが、そのままプロダクト開発の速さとか改善の速さとか、エコシステム、いろんなアプリにつながると感じました。

自分がマーチャントとしてやる場合も、UXの良さはグローバルなプラットフォームの方が生きてくるだろうなと思ってShopifyを選びました。プロダクトマネージャーとしてずっとサービスを見てきた経験からも、規模感のあるプラットフォームが継続的に改善されていくのは肌感としてわかっていたので、そこは迷わなかったですね。

—— 実際の運営はどのようにされていたのでしょうか。

木下さん 最初の構築から全部自分でやっていましたね。いろんなアプリを入れたり、発送通知とかも最初は自分でポツポツやっていました。構築自体はそんなに難しくなくて、自分でいじりながら覚えていきました。

—— ノンアルコール事業のときは、コラムの運用もかなり力を入れていらっしゃった印象です。

木下さん 広告って止めたら終わりじゃないですか。でもコンテンツは積み上がっていくので、そこはしっかりやりたいなと思っていました。

しかも自分自身が禁酒していたこともあって、禁酒の効果とか禁酒のやり方、その時に飲むノンアルコールビールっていうクエリもあるなと思ったので、そこを拾いにいく形でコンテンツを積み上げていきました。

調べる人がいるなと思ったら、そこに向けてコンテンツを置いておく。ランサーズ時代にSEOをディレクターとして担当していた経験もあって、そこの知見が活きましたね。次のスキンケアブランドでも同じようにコラムを作っていこうと思っています。

 

 

事業が止まっても経営は続く。木下さんにとってノンアルコールビール事業は終わりではなく、次の事業への知見の積立でした。コントロールできないと判断した瞬間に、次へ切り替える。3年間で見えてきたプロダクトの課題を、そのまま次の商材選定の条件に変えた。終売という経験が、次の事業の基盤になっています。

後編では、次のブランドでのEC設計とRuffRuffアプリの活用、そして3年間の経営を振り返ってのお話を伺います。

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